広島大学の吉田先生とお弟子さんのBingさんと長らくやっていた論文がようやく(×10)完成しまして、学術誌に投稿しました。日本の新幹線高速鉄道の研究になります。ここから見れます。

タイトル("Does Monopoly Slow Down the Bullet Train?")にあるように、競争の度合いによって新幹線の速さが変わるのかを定量的に分析しています。ざっくり言うと、1987年に日本国有鉄道(国鉄)の民営化が開始されました。これによって、本州(東京ー大阪間)の高速鉄道と在来線はJR東日本・東海・西日本に分割されることになります。

ご存じのように、在来線は熱海より東はJR東日本が、熱海ー米原間はJR東海が、そして米原より西はJR西日本が管轄していますが、運行上の理由から東海道新幹線は分割されずにJR東海が一社で管轄しています。新幹線と在来線は並行する形で運行しているわけですが(新幹線駅と在来線駅が一緒にないところも幾つかあります)、両者の運行会社が異なれば短・中距離では新幹線と在来線の競争が生まれることになります。逆に、一社で両方を管轄していれば、新幹線の客を在来線に奪われたとしても問題にはなりません。

論文では、この競争の程度の違いを利用して、競争が新幹線移動の価格(利用者の時間的費用)に与える影響を分析しています。分析結果は、(JR東海による新幹線・在来線の独占によって)競争が存在しない区間では、100kmの移動において約6分程度の時間的費用の増加が見られることを示しています。

二重差分法(DID)の共通トレンドの仮定を必要としない不均一トレンド・モデル(heterogenous time trend model)の推計などを含む様々な検証を経ても、この結果は頑健です。

高所得国・低所得国を問わず、これまで多くの公共サービスを提供する国有企業が民営化されてきました。自然独占の形態をとることが多い公共サービス部門の民営化においては、地域ごとに分割する地域間競争よりも同一地域内での競争を確保することがサービスの価格・質を高めるために重要であることが示唆されています。

神戸大学GSICS・准教授
伊藤高弘